リチャード・ジョンソン氏(アーノルド&ポーター法律事務所パートナー)が務めたこのセッションは教育の競争力・生産性向上への寄与という観点だけでなく、紛争の解決や社会の一体性維持といったより広い貢献についての議論を行った。ジョンソン氏は、講演に先立ち、新しい知識、人的資本を増加させたからといって必ずしも社会が進歩するものではないのであって、社会的な枠組みといった経済以外の種々の要素を加味する必要があり、そう言う意味で社会的資産(social assets)という観点が重要であるとした。
滑川雅士氏(外務省経済協力局審議官)は日本による教育分野での途上国支援の概要、考え方、実施事項について紹介し、課題を示した。貧困を解決するための基礎教育の重要性は国際的にも共通の認識となっており、各種国際会議、G8でも採りあげられてきたが、充分に進展してこなかったとした。そして、2000年のダカールの世界教育フォーラムで2015年を目標とした行動枠組みが再度採択され、日本も積極的に関与していると報告した。途上国での基礎教育が遅々として進まない理由として、長期に渡って経常的に資金を投じなければ結果が現れないこと、途上国の人々が教育を受けるインセンティブに問題があると考えられる。教育を計画的に進めていくことは難しいが、インセンティブを高めるための雇用創造面での努力を教育と併行して支援することが需要であると指摘した。
坂本和一氏(立命館アジア太平洋大学学長)はグローバル化社会の中での異文化理解をどう進めるのかが、高等教育にとって重要な課題となっているが、これに対する具体的事例として自らの大学設立・運営の経験を呈示した。異文化理解を進めるための大学教育はキャンパスそのもの、学生生活の日常そのものを多文化社会にすることであるとの基本的考えから半数の学生を海外からの学生とし、英語と日本語による教育を行っているとした。そして、大学の中での国際交流によって、学生は外国からの学生の積極性や意欲が日本の学生を刺激し、 日本人というもののアイデンティティを感じ取らせることができ、さらにグローバル文化の芽生える可能性が見えはじめていると報告した。日本のことを教えるために産業界には経済的支援はもちろん、大学の限られた教員資源の補完をお願いしていること、さらに地元地域との交流の実状を述べた。
2人の講師のスピーチの後、深田宏氏(日本航空システム顧問)からテロ以降人類の将来について悲観的に見る人が増えているが、この心配の種となっている流れを少しでも食い止める役割として教育に期待しているとし、高等教育においても人種や宗教を超えた共通の倫理観を持てるようにして欲しいと述べた。片岡宏文氏(東京ガス特別参与)は最近の日本の産業界による社会的資産としての知識を大事にする姿勢に問題があると指摘した。日本としては教育や学問をすることに対する尊敬の念をリーダーから一般大衆まで持つべきであると主張、具体的には文化功労者の年金を一桁あげるくらいの意志表示が必要と訴えた。また、e‐ラーニングを活用した教育問題のアピールを行うべきであるとした。
ウェーバー氏はヨーロッパでの議論として、(1)問題解決能力の重要性とともに、世界や社会に対する認識力や価値観に関する制度も重要であること、さらには(2)人道と科学との間の対立、(3)エリート教育だけの危険性、(4)コミュニケーションが採りあげられているとした。井村氏は南北の経済格差の拡大を憂慮し、先進国での高等教育において、テロの問題も含め、南北問題への対応を対応していかないと真の豊かな地球社会を実現できないのではないのか、このためには高等教育はどうすればよいのかという質問を投げかけた。これに対し、坂本氏はODAの支援を高等教育に割くことが必要で、多文化教育環境では若者はそれなりの共通理解をしながら折り合っていると答え、滑川氏は倫理等の問題は学術交流で行い、開発協力と分けて考えていること、高等教育のODAとしては留学生、研修生の形で日本に来て貰う形をとっていること、さらに効果的なものとしては行政官などのハイレベルな留学生の招へいがあること、さらには留学生の国内での交流にも気を配る努力をしていることを報告した。
ジョンソン氏は米国の現在の状況として、国際的問題に立ち向かうために官民パートナーシップが新しい傾向として生まれてきているとし、食料安全保障、伝染病、感染症などの健康、保健などの差し迫った国際的な問題に取り組みつつあると報告。その中で、産学の協力が進むことで革新的なことが可能となると指摘した。ワード氏はテロ以降の大学の問題として国土安全保障の名のもと、留学生が人質にされてしまっていると報告。トラッキングシステムの導入も稼働の予定であるが、これがうまくいかないと大学現場において重要な留学生や交流プログラムに影響がでてくるとした。
ブロード氏は経済開発と社会の一体性の連携に対する官民間の戦略的な協力の可能性を論じ、メキシコのモンテレー工科大学の学長がメキシコ経済の人材育成や倫理的な行動に対して積極的に取り組み、大学の使命(価値観)としてメキシコ社会全体への貢献を掲げている例を示した。ソウザ氏はテロの根本にあるものが何かを理解するために大学は対話や理解の促進をすべきであるとし、また、途上国における高等教育は教育の質向上のための教員育成の観点からも重要な役割を果たすので、日本での留学生受け入れに際し教員養成を目的としたものを検討すべきとした。武田修三郎氏(東海大学教授)は大学のグローバル社会への貢献が重要になるとし、日本での外国人による大学の設立の例を挙げ、途上国の高等教育への貢献を自信をもって行うべきとした。これに対し、滑川氏はODAの支援範囲内で大学の途上国進出に関して手伝うことができるだろうとした。
木村孟氏(大学評価・学位授与機構機構長)は日本の大学が嫌われているために日本の学生の流出が起きているとし、学生の獲得競争が地球規模で高まっていることに日本の大学は危機感を持つべきと警鐘を鳴らした。坂本氏は5年前にアジアを回った時に、アジアの学生のモビリティが高くなっていることから日本の学生も動き出すと直感したとし、この動きを止めるのではなく、互いに国際的な環境を作って教育を行うことを考えるべきとした。 |