稲葉興作氏(前日本商工会議所会頭、石川島播磨重工業取締役相談役)の座長のもと、基調講演がナンシー・キャサバン・ベーカー氏(前米国上院議員、米国大使夫人)、ヘイター・ガガリノ・デ・ソウザ氏(国際大学学長協会副会長)、モリー・ブロード氏(ノースカロライナ大学学長)、栗山尚一氏(外務省顧問)の順に行われ、知識・学習主導社会および教育に対するそれぞれの考えを示した。
稲葉興作氏は現在の企業でのミスや若者の基礎学力の問題に触れ、知識の蓄積と共に感性を磨くにはどうすればよいのか、形式知だけではなく、暗黙知をどう次世代に伝達していけるのかという課題を提示した。
ナンシー・キャサバン・ベーカー氏は高等教育において質の高い教育を実現するには高等教育機関に入ってくる学生がその教育を受けられる準備をしているか否かが重要であると指摘した。それ故、基礎教育、中等教育の問題の解決なしでは高等教育の基本的問題は解決しない。現状はこの問題に関して言葉だけに終わってしまっており、本当に学生の利益になるような教育はどうすべきかを真剣に考えていない。教育というものは、我々が国民としてどういう国民になるのか、どういう国なのか、今後この国がどうなるのかを定義するものであり、極めて重要なものである。ベーカー氏は中等教育段階でのキャリアカウンセルの提供を提案し、そこに産業界が貢献する重要な役割があるとした。最後に、知識経済において、情報に流されない人づくりが必要で、そのため、人間としてコミュニケーションする力、ディベートする能力が求められること、世界が相互関係にあると認識しながら自らの文化のアイデンティティを維持すること、知識を獲得するだけではなく、それを理解することができる人づくりが必要であるとした。
ヘイター・ガガリノ・デ・ソウザ氏は途上国の視点から知識経済において南北格差は手を打たないと広がるとした。途上国のリーダーはあらゆるレベルで教育投資をするべきで、特に高等教育への投資が必要という信念を持っている。また、途上国の問題解決には知識とコミュニケーション技術が車の両輪のように重要で、このための環境づくりがユネスコなどでも採りあげられている。途上国が全面的に知識経済に参画するためには、頭脳流出問題を抱えているものの、産学協働や国際的な共同研究などを含め、途上国の希少な創造性を産業につなげ、イノベーション能力を育成することが具体的方策と考えられる。高等教育は自主性と自由が保証されるが、その反面で全面的に社会に対して責任を担う義務がある。大学は今後変化し教育、研究、カリキュラムは大幅に変化すると思われるが、その保守性によって、大学自身が新たな環境に適応するには時間がかかると述べた。
モリー・ブロード氏は米国の大学経営という立場から知識経済にどう対応しているかを示した。米国の大学の基本的任務として(1)優れた教育の提供、(2)新たな知識のフロンティアを追求する研究の推進、(3)市民への実践的な奉仕があるが、環境の変化に合わせてこの現れ方が異なってきたと説明。新たな環境の変化として、グローバル化、知識の爆発、変化のスピードの高まり、教育・訓練需要の高まり(入学生の半分以上が25歳以上、大卒レベルの教育が必要な仕事がほとんど)を具体的に示し、これに対して、大学は、企業や他の大学との各々の強みを活かしたパートナーシップづくり、e‐ラーニングなどで対応しようとしているとした。 最後に、知識経済を動かす重要な駆動力として、(1)目に見えない無形のものの価値、(2)スピード、(3)いかにつながっているかが提示され、価値は情報と人間関係に存在し、変化という変らないものに対応していく必要性を訴えた。
栗山尚一氏は外交官時代に強く意識した「グローバリゼーションと多元主義時代の教育が直面している異文化間のコミュニケーションの向上」という課題について述べた。情報時代は(1)選択の自由を求める多元主義、(2)グローバリゼーション、という2つのベクトルを生んだ。 前者がもたらす社会は民主主義、市場経済である。後者は個別社会固有のルールに代わる地球規模での普遍的ルールの範囲の拡大を意味する。この中で、前者の価値の普遍性を主張する普遍主義と民族、宗教、歴史等による価値の固有性を主張する個別主義(Particularism)が出現し、国際関係を不安定なものにしている。21世紀の世界が平和で自由かつ豊かで人間的な世界になるか否かはこの基本的理念の対立の解決に依存しているため、異文化間のコミュニケーションの向上が急務である。文化の違いを相互に尊重しつつ、お互いの長所を学ぶ協力があらゆるレベルで行われる寛容な国際社会の構築が必要であると述べた。 |